『闇の中の幽霊』(8)終

半パラレルです。
小松の職場が違います。あとは原作ベースです。
 
最終話です。
 
 
 
『闇の中の幽霊』
 
(8)
 
 
 
 
港では運送業者が、物々しい警官たちの姿に目を奪われていた。
幾人かは事情を知っているのか、新聞記者に囲まれている。
目立たない一角には新しい乗組員とおぼしき一団が、バスの中からこちらを伺っていた。
「トリコ…?」
怪訝な顔で覗き込むリンの頭を軽く撫でてやる。
「オレらには関係ない話だ。降りるぞ」
「…小松さんは…?一緒に降りるんだよね?」
“船を降りるまでに答えを出す”と言っていた小松の姿はここにはない。
朝、食堂に行くと言っていたので、食堂にいるのは判っている。
アイツなりに思うところがあるのかもしれないと思い踏み込みはしなかったが、急に不安になってきた。
食堂に向かう足は、いつしか駆け足になっていた。
 
「小松!」
恐らく、オレはかなり間抜けなツラをしていたのだろう。
雑巾を持った小松が目を丸くしてこちらを見ていた。
「どうしたんですか、トリコさん?」
ピカピカに磨きあげられた食堂と、厨房。
真面目な小松らしい、と思うと同時に、船を降りるつもりがあるのだと判り、ホッとした。
「あ…いや、なんでもな…くはないんだが」
「…ボクも警察に行くんですよね?」
「少し話が聞きたいとは言ってたがな…」
「その前に、新しいコックと話がしたいんですが、大丈夫でしょうか?機器の使い方にコツがあるんで伝えておきたいんです」
「あ、ああ。そんなことなら」
携帯を取り出して、外のIGO職員に連絡を取る。
外ではもう乗組員の逮捕収容が始まっていて、新規の職員のことまで手がまわらないらしい。少し時間がかかると小松に伝えると、小松は再び雑巾を絞って厨房を磨き始めた。
「小松…その」
「ボク…IGOの店に…行かなきゃいけませんか?」
思いがけない言葉だった。
この船に残りたいのだろうか?
確かに乗組員が一新されれば、小松の過去を知る者はいなくなる。
だが。
長期航海する船の料理人になってしまったら、会いたい時に会えなくなる。
小松にはまだ伝えてなかったが、オレのモットーは「思い立ったが吉日」なのだ。
「小松、オレは――」
「ボク、トリコさんの…トリコさんの料理人になりたいんです」
まっすぐオレを見る小松の大きな瞳には、またしても間抜けな顔をしているオレが映っていた。
「美食屋に付いて行くには…まだまだ力不足だとは思いますけど…、トリコさんと一緒に、色々な世界を見たいんです」
「小松――」
二の句が継げないでいるオレに不安を感じたのか、小松がわたわたと両手をばたつかせた。
「あ、あの!ボク、貯金はある方なのでトリコさんには決して御迷惑はかけないつもりで――っ?!」
 
抱きしめずにはいられなかった。
何故か、考えもしなかった、小松とオレで観る世界。
ふたりで色々な“食”をめぐる旅。
明るい未来、どころじゃない。
眩しすぎて想像もつかないじゃないか!
 
「じゃあ、まずは――オレだけの世界に案内してやるよ」
 
オレがどれだけ小松のことを好きなのか、嫌ってほど教えてやらないと。
 
あとは…オレの好みの味付け。
今まで食べてきた美味いもの。
まだ少ししか埋まっていないフルコースのメニュー。
かけがえのない仲間たち。
少しだけハードな過去――。
 
残りの人生を、2人で歩んで、埋めていこう。
 
 
幽霊なんてものが入り込む隙間もないくらいに。
 
 
 
 
 

 
 
おわり
 
 
 
 

あとがき。
時間がかかりすぎる連載ですみませんでした…。
コミケが終わったら、サイトの方にまとめてアップします(^^)
色々修正しないとなー(^^;)リンちゃんの身長とか年齢とか(^^;)
よかったら、感想など聞かせていただけると嬉しいです(^^)
連載中の、プレーンの拍手もありがとうございました!