『闇の中の幽霊』(6)

半パラレルです。
小松の職場が違います。あとは原作ベースです。
 
 
 
 
『闇の中の幽霊』
 
(6)
 
 
 
 
「身体、大丈夫か?小松」
「大丈夫ですよ」
「荷物それで全部か、重ければ持つぜ」
私物の包丁と料理の本、着替えが入った小さな鞄が小松の荷物の全てだった。
「…昨日はいつもより早く寝れているんですよ?大丈夫です」
含みを持たせて、小松は笑った。
「そうだ。お前さ…、IGOに来ないか?腕はオレが保障するから機関のどこにだって就けるぜ」
「…考えさせてください。船を降りるまでに回答しますから」
小松を連れて、2階の部屋に行き、ドアのところで足を止める。
「じゃあ…朝迎えに来るからよ。それまではしっかり鍵をかけて、オレかリンか確認するまでドアを開けるなよ」
部屋に入るつもりはなかった。
 
 
 
小松と部屋を交換したのは失敗だった。
どこもかしこも小松の匂いで溢れているのだ。
ましてや、この部屋は情交に使われていて、その手の匂いも色濃く残っていた。
リンに強力な消臭剤を分けてもらえばよかった、と下半身が主張している。
(小松と同じ部屋でも、別々の部屋でも、同じ悩みを持つ羽目になっていたのか)
悩みは同じだが、処理できるだけマシか。と前を寛げた時。
「トリコさん」
部屋と同じ匂いを部屋の外に感じた。
本能を文字通り押し込めると急いでドアを開け、匂いの発生源を引き入れた。
「な…にしてんだ小松!誰かに見つかったら…」
「幽霊だから大丈夫ですよ」
その言葉にどんな揶揄が含まれているのか、計り知れない。
「ここに来れば中に入れてくれると思いました」
「小松」
「抱いてください」
目の奥が、くらりと揺れた。
まだ悪夢から抜け出せていないのかと思ったが、小松の目は正気だった。
「勃ったんでしょう?ボクで」
真っすぐな目に押されて後ずされば、足がベッドに当たりそのまま腰掛けてしまった。
目線が揃うと、ますます小松の真っすぐな目を目の当たりにしてしまう。
「やめろ」
「それともこんなに汚れてしまったボクは魅力ないですか?」
「そうじゃない…そうじゃないんだ小松」
混乱していた。
オレは間違いなく小松を抱けるだろう。
でもそんな資格は、オレにはない。
「オレがお前を助けたのは、こんなことして貰うためじゃない」
お前を闇から救い出して、明るい未来を歩いて貰いたかったんだ。
「オレは――」
「ボクがこんなことをするのは助けて貰ったからじゃない!」
そう叫ぶと、小松は首に抱き着いてきた。
体格差のせいでおぼつく身体を、思わず抱きかえす。
震えていた。
「――好きなんです」
そっと腕を緩めると、小松はゆっくりとオレを見て…唇を重ねてきた。
触れるだけの、キス。
唇が身体同様に震えているのは、恐れではない。
たどたどしさを感じる口づけに、小松の真意を見たような気がした。
初めて、なのだ。
「…本当に、好きなんです――」
救う?助ける?
闇からの出口に立ち塞がっているのは、他でもない、自分ではないのか。
「きちんと、言いたかった。…トリコさんが、好きなんです」
小松の気持ちを正面から受け止めてこそ、一緒に未来を見据えることができるのだ。
一緒に。
そうだ。いつの間にかオレはお前のいない未来はないと思っている。
「――悪かった。もうお前に辛い思いはさせねぇ」
闇の向こうへ、行こう。2人で。
「トリコ…さん…」
「オレもお前が好きだ」
頬に手を添えて、口づける。
体中で小松を感じたくて、片手で抱き寄せた。
もっと、深く、互いを感じたい。
 
どちらからともなく深くなる口づけ。
 
 
――鍵のかかる部屋に戻る余裕はなかった。
 
 
続く
 
 
 
な…難産でした…orz