『闇の中の幽霊』(1)トリコマ

サイト1周年になんとか間に合いました(^^;)
てか、実質間に合ってませんね…。
サイトをいじる時間がないので、ブログに掲載していきます。
あとでサイトにまとめて掲載します。
あ、(2)の更新は週末あたりになるかと思います(^^;)
 
 
半パラレル(?)です。
小松の職場が違います。あとは原作ベースです。
 
※(1)にはありませんが、いずれ暴力的ともいえる表現が出てくる予定なのでご注意下さい。
 
 
 
 
『闇の中の幽霊』
 
(1)
 
 
この船のメシは旨い。
船の食事といえば、量や質に制限が出るものだが、ここでは一度たりとも同じ料理が出たことはない。食材の切れかかる寄港前には似た料理になることもあるが、スパイスや調理法を変えて、飽きさせない工夫が必ずしてある。(そもそも旨いのだから、同じ料理が続いてもオレは困らない)
 
グルメ船、といえば聞こえはいい。が、平たく言えば貨物船だ。
数多のグルメ食材を適正な条件の下で運搬する輸送船。
故に船の食事は、食材の入手に事欠くことはないのだが、水やガスはどうしても限られてくる。
調理法に詳しいわけではないが、無駄のない調理なのは解る。
こればかりは設備や食材の問題ではない。
料理人の腕と、気概、だ。
 
IGOの依頼を請けたはいいが、移動が船だと聞いた時はがっかりしたものだ。
特殊な素材だから、グルメ船を使わなければならないし、船でなければ近づけない地区だったから仕方がない。
 
船は人を運ぶ要素も備えられていた。
美食屋四天王にあてがわれた部屋は、一応一等船室で、見晴らしもいい2Fにある。
が、オレは一日の大半を職員用の食堂で過ごしていた。
今もこうして、旨いメシの残り香を堪能しながら食事の余韻と更なる楽しみを待っている。
 
「ねぇトリコ!船員さん達の話、聞いた?」
同行しているリンが息せき切って食堂に入ってきた。
「何だよ、リンが『大女』って言われた話か?」
リンの身長は175cmと、女にしてはかなり高い。
研究所内では低い方なので気が付かなかったが、この船ではリンより背の低い船員は数人しかいない。
あまりにも身長の話をされすぎて『175』が返答の第一声になったと愚痴をこぼしていた。
「…そっちじゃなくて。幽霊の話!」
「幽霊だァ?」
ふふん、と鼻を鳴らして向かいの席につく。
「この船はね、メイド服着た金髪の幽霊が出るんだって!でねでね、その幽霊を見た人は3日以内に死んじゃうらしいの!」
肩をすくめているが、表情はどこか明るい。
「誰か死んだのか?」
「え?いやー…そこまでは聞かなかったケド〜」
「ったく、女ってのはそういう噂話が好きだよな」
船に乗って一週間。娯楽に飢えるのは仕方ないが、よりによってオカルト話とは。
「船員さんは男だよー。てかこの船ってウチしか女の人がいないじゃん!」
男性ばかりの船にリンを連れていくのは戸惑ったが、今回のハントはリンの香りに関する知識が必要なハントだったのだ。
船の手配をしたのは依頼したIGOで、船内に女の客が居ないのは乗船してから知った事実だ。
もっとも、最初にオレが牽制したのが効いたのか、リンは特に接触された様子はないようだった。
そもそも得意先のIGOの要職であり、美食屋四天王サニーの妹とくれば、手を出す者はいないだろう。
 
「絹レタスのチャーハン、お待たせしました、リンさんの分もありますよ!」
「わぁ、ありがとう小松さん!」
「時間外なのに悪いな」
「賄いのついでですから。はい、トリコさんには大盛りです!」
「サンキュー」
熱に極端に弱い絹レタスを、絶妙のタイミングでチャーハンに仕上げた技術の持ち主のこのコックは、小松といった。
オレが楽しみにしているのは、この料理人の賄いだった。
 
リンよりも頭ひとつ小さいその風体は、リンを羨ましがらせていた。
「ねぇねぇ、小松さんは幽霊見た事ある?」
「見たら3日以内に死ぬんじゃないのか」
「あ、そっか」
「らしいですね。残念ながらボクは見た事ないですけど」
「じゃあ噂は本当なの?」
「…夜中に甲板とかを出歩かないようにするための、戒めの作り話なんだと思いますよ?」
「なぁんだー」
「作り話だといっても、真夜中に甲板に出たらダメですからね、リンさん」
「はぁい」
腹のふくれない幽霊話は、絹レタスチャーハンに箸をつけたところで終了した。
美味過ぎる飯には噂話というスパイスは必要ないのだ。
 
 
続く
 
 
リンちゃんの身長は捏造です(^^;)